【古典】
1位:『カラマーゾフの兄弟』 ドストエフスキー
1位:『罪と罰』 ドストエフスキー
3位:『ドグラ・マグラ』 夢野久作
4位:『モンテ・クリスト伯』 アレクサンドル・デュマ
5位:『レ・ミゼラブル』 ヴィクトル・ユゴー
『カラマーゾフの兄弟』:高校生のとき寝食忘れてむさぼりように読みました。「本当に一人の人間がこれだけのことを考えたのか?」と疑いたくなるほどの奥行きの深さに魂を揺さぶられました。この小説が「人間関係の宇宙」と称されるのは充分納得がいきます。そして本編はもちろん、ゾシマ長老の若い頃の話やイワンが無神論をアリョーシャに語るシーンなど、挿話がことごとくおもしろい。イワンの神を信じたいが信じることができないという苦しい胸中は、おそらくドストエフスキー自身の胸中でもあったのでしょう。この小説が書かれた19世紀後半は科学の進歩が神をその台座から地上に引きずり下ろし、社会主義・無政府主義の嵐が吹き荒れていた時代です。当時の知識人の苦悩が垣間見えると同時に、こうした激動の時代だったからこそ、カラマーゾフのような名作が生まれたのだと思います。
『罪と罰』:『カラマーゾフの兄弟』と甲乙つけがたい名作ですが、題名のインパクトからこちらの方が日本では知名度が高いようです。
独自の犯罪理論を構築し、それに基づいて質屋の老婆を殺害したラスコーリニコフ。しかし心美しき売春婦ソーニャとの出会いをきっかけに彼の心は転落をはじめる。
ドストエフスキーの作品の魅力の一つは人間の感情の波の激しいうねりにあると私は思います。後半ラスコーリニコフがソーニャに自分の苦しい胸のうちを明かすシーンは、自尊心の高い読者の頭にガツーンと厳しい一撃を喰らわせます。逆に言えば自尊心のあまり高くない人がこの小説を読んでもさほど面白みを感じないのかもしれません。
『ドグラ・マグラ』:名作と言われながら、多くの人がなかなかこの小説を読みこなせないのは、前半に難解な文章が長々と続くからでしょう。しかしこの部分を頑張って理解しないと後半のおもしろさがわからない。前半頑張れば後半に物語の素晴しい展開が待っています。
私は推理小説が大好きで、この小説も推理小説というくくりの中で読み始めたのですが、とてもそんな小さな枠組みには収まりきらない奥深さがありました。日本の小説では間違いなくNo.1です。こういう深遠な小説が日本にほとんど無いのが残念であり、またそれが自分で小説を書いてみたいと思うきっかけでもありました。
『モンテ・クリスト伯』:1815年優秀な船乗りであるエドモン・ダンテスはナポレオン派という無実の罪を着せられて孤島の監獄へ投獄される。この年はライプチヒの戦いに敗れたナポレオンがエルバ島に流されたときである。監獄から脱獄しようとして穴を掘り、間違ってダンテスの部屋に辿り着いたファリア司祭とダンテスは出会い、ファリア司祭から学問を授かる。そしてファリア司祭の死に際、ダンテスはファリア司祭から宝物の在り処を聞き、脱獄。数年後巨万の富を得たダンテスはモンテ・クリスト伯と名を変え、自分を陥れた3人の男たちに復讐をはじめる。
この小説は古典に分類されると思いますが、非常に読みやすく最近のへたなエンターテイメントよりも断然おもしろいです。岩波文庫で8巻ありますが、あまりにおもしろいのであっという間に読み終えてしまいます。エンターテイメントの究極の形の一つがこの小説にあらわれていると言えるでしょう。ちなみに『三銃士』もデュマの作品です。
『レ・ミゼラブル』:たった一斤のパンを盗んだため19年間投獄されていたジャン・バルジャン。出所後彼はディーニュの司教に出会い、そのあまりの慈悲深さに心を打たれ、自らも善の道を志すようになります。そして数年後彼はマドレーヌと名を変えフランスの地方都市の市長となり、レ・ミゼラブル(みじめな人々)の救済に尽力します。
私がこの小説を読んだのは実は昨年です。ラストは涙なくしては読めませんでした。「若いときに読んでおくべきだった・・・」と心底後悔しています。
なお、この小説を読む上で困るのは、ジャン・バルジャンの物語とは関係の無い余計な記述が数百ページもあることです。「ワーテルローの戦い」「フランスの修道院制度」「パリの下水道の歴史」など余計な記述が全体の3分の1はあるのではないでしょうか。おそらくこれらの記述に足を取られて挫折してしまう人が少なくないと思います。この小説は新潮文庫版で5巻もあるので、こういう余計な記述はバッサリと切り捨てて、ジャン・バルジャンの物語だけ読めば時間の節約とストレスの軽減になるはずです。