大学受験を目の前に控えた高三生八人が真冬の校舎の中に閉じ込められてしまう。閉じ込められた八人はクラスメートで、一ヶ月前の学園祭の最終日にこの八人のうち誰かが自殺をしたことはみんな覚えているが、誰もその生徒の名前を思い出せない。八人でいろいろ話し合っているうちに、その中の一人が前例を挙げつつ、今自分たちが直面している事態は自殺した生徒の思惟の中で進行していると指摘し、それが一体誰なのかを八人で探り始める。すると八人それぞれが自殺するだけの理由があることがわかってくる。そのうち生徒が一人一人消えはじめた。最後に残った生徒が思惟を動かす本人ということであり、残った生徒たちは固唾を呑んで成り行きを見守るか、あるいは精一杯の抵抗を試みる……。
私は数ヶ月前に図書館で借りて読みました。借りたときは辻村氏が直木賞を受賞したことは知らず、ただメフィスト賞という新人賞の過去の受賞作だ、という理由だけで読んでみました。メフィスト賞の傾向を知るために読んだため、楽しむというよりむしろ分析することを主眼に置いており、一般の読者とは見解の相違があるかもしれません。
以下思ったことを三点箇条書きにして並べてみます。
@ 人間の思惟の中に友達を引きずり込んで、その中でストーリーが進行するという非リアル系のミステリーで、加えてオカルト系の趣きもあります。この非リアルな世界についてその根拠が薄弱ですが、全体を通して論理の破綻を感じませんでした。
A 文章力もかなり高いレベルにあるが、現在形を多用していて時制が不自然である。物語が時間が止まっている中で展開していることを念頭においてこのような筆運びになったのだと思いますが、やはり違和感がある。「動作は過去形、状態は現在形」という鉄則からすると現在形の多用は大変な違和感があります。また体言止めがやたらと出てくる。それが効果的に使われていればいいのですが、これだけ乱発されると鼻につく。体言止めは中学女子の文法だと思います。
B 私は付箋を使ってプロットを分析をするように読んだため、トリックの半分は途中でわかってしまいました。もう半分は作者が種明かしをしないと誰にもわかりません。何も考えないで読めば、もっと本作を楽しめたかもしれません。推理小説は何も考えずに読んで、最後の種明かしで素直に驚かされるのが一番おもしろい読み方だと私は思うからです。
本作は辻村女史の処女作ですが、総合評価をすると「おもしろい」といえます。彼女の他の本は読んでませんが、おそらく直木賞に値する作品を書いているのでしょう(私は時間の制約上彼女の他の作品は読むことができませんが)。また私が上記に挙げたいくつかの欠点もデビュー作であることを考えると許容できる範囲です。むしろ欠点があるゆえに私たちデビューを目指すものにとって大きな安心感を与えてくれます。なぜなら完璧な作品しか新人賞をとれないのなら私の創作意欲は萎えてしまうからです。
ちなみに私が目指しているメフィスト賞は日本で一番尖った新人賞として有名です。おもしろければなんでもオッケーです。暴力や血にまみれた他の賞では敬遠されるような小説でもおもしろければ受け入れてくれます。これまで京極夏彦や森博嗣などを輩出しました。この賞をとってなんとかデビューしたいものです。