2012年09月02日

私が影響を受けた名作たち【エンターテイメント】

 前回は私が影響を受けた古典をご紹介しましたが、今回は比較的最近のエンターテイメントをご紹介したと思います。

『鷲は舞い降りた』(The eagle has landed:1975)ジャック・ヒギンズ
  ドイツの敗色濃厚な大戦末期、イギリス東部の村ノーフォークにヒトラーからの密命を帯びてドイツの精鋭落下傘部隊が舞い降りた。その任務はチャーチルを誘拐・暗殺せよ、というものであった・・・
 これだけ面白い小説に人は一生のうち何度出会えるでしょうか?とにかく面白い!イギリス人作家が完全にドイツ側の視点から描いた戦記です。もちろん英米作家の戦記ではナチは極悪非道の集団として描かれていますが、本作では「ナチはヒトラーばかりじゃない」と言わんばかりにドイツの軍人たちをプロフェッショナルとして公平に扱っています。
 ヒトラーが気まぐれから言ったことが、軍情報局で実行可能と判断され、作戦がはじまります。前半は軍情報局のラードル大佐とゲシュタポ長官のヒムラーとの息詰まるやりとりがあり、また後半は実際にイギリスに舞い降りたシュタイナー中佐率いる落下傘部隊がボーランド軍を装いチャーチルの到着を待ち、現地部隊と戦闘になります。
 物語として面白い上に、また人物描写も素晴しい。ユダヤ人少女を救って懲罰部隊に放り込まれたシュタイナー中佐とその部下たち、冬季戦(対ソ戦)に従軍し重傷を負いながら作戦を進めシュタイナーたちを援護するラードル大佐、ノーフォークに住むドイツ側の女スパイのジョウアナ・グレイ等々、魅力的な人々が物語を彩ります。作家を志すならこれだけのものを書いてみたい、とため息の出る一冊です。



『さらば愛しき人よ』(Farewell, My Lovely:1940)レイモンド・チャンドラー
 チャンドラーがハードボイルドの巨匠としての地位を確立したのが、この作品です。私は高校生のとき、探偵小説というくくりの中で評価の高いこの小説を手に取ったのですが、最初のうちはあまりにキザな言い回しやセリフに寒気がしました。しかし読み進めていくうちに、こうしたキザな部分が徐々に心地よくなってきて、読後にはそれまで経験したことのない甘美な余韻にひたっていました。またこの作品は人物描写についての評価が非常に高く、大鹿マロイや赤毛のヴェルマから、後半ちょい役で出てくる船乗りのレッド、マフィアのボスのレアード・ブルネットまで多彩な脇役たちが物語に彩をそえています。そしてこの作品で「卑しい街を誇り高く歩く男」である私立探偵フリップ・マーロウが完成します。ほんのはした金で街ぐるみ買えるロサンゼルスの一画ベイ・シティを、チャンドラーはマーロウの目を通して美しく愛情をこめて描いています。ミステリーとしてのトリックはたいしたことはありませんが、「ロサンゼルスの夜景」のように多くの読者を魅了する要素が随所にちりばめられています。



『長いお別れ』(The Long Goodbye:1954)レイモンド・チャンドラー
 チャンドラーの最高傑作で、ミステリーのランキングがあれば、たいていベスト3に入ります。このブログを書く前にもう一度読み返しましたが、ミステリーとしてのランキングが高いわりにプロット、トリックにアガサ・クリスティーやエラリー・クイーンのような派手さがない。それでもやはりおもしろい。『さらば愛しき人よ』のようなキザさは薄れていますが、薄れているだけでなくなっているわけではありません。「ギムレットにはまだ早い」というセリフがどこかで出てきます。この作品の設定の中で読めば「キザ」というよりは「かっこいい」としびれるでしょう。
 ちなみに『さらば愛しき人よ』と『長いお別れ』は最近村上春樹が訳本を出しています。それぞれ『さよなら、愛しい人』と『ロング・グッドバイ』。中身は読んでいませんが、題名はもっとしっかりしろよ、と思いました。



『深夜プラス1』(Midnight Plus One:1965)ギャビン・ライアル
 元イギリス諜報部員ルイス・ケインは知り合いの弁護士から依頼を受ける。フランスのブルターニュからリヒテンシュタインまで大富豪マガンハルトを送り届けてくれ、というものであった。ケインは腕利きだがアル中のガンマンのロヴェルとマガンハルト、そしてその秘書のヘレン・ジャーマンをシトロエンDSに乗せてリヒテンシュタインに向かうが、その道中、ケインたちの行き先を知っているかのように強力な敵が彼らの行く手を阻む。
 この作品の一番の見所はケインやロヴェルのプロ根性であり、そしてロマンティックなところです。そして題名。『深夜プラス1』とはケインがマガンハルトをリヒテンシュタインに送り届けるタイムリミットのことです。もし題名がこれほどクールでなければ評価はガクンと落ちるでしょう。


 ここまでエンターテイメントの4作品を概観いたしましたが、どの作品もエンターテイメントのランキングがあれば必ずベスト10に入る名作です。そしてこれらの作品にすべてに共通するのは「男の美学」を追求し、それを表現していることです。男の美学とは、権力に迎合しないとか、レディーファースト等いくつかの要素があると思いますが、上記作品でもっとも重視されているのが「男の友情・信頼を裏切らない」という極めて基本的なところです。友情という基本的なテーマが読者の心を動かし、女性の読者にも美しく、かっこよく味わえるのです。決して奇をてらったことが読者の心をつかむわけではないことを私は学びました。
 最後に友情についてゲーテの言葉を引用して終わりたいと思います。
「空気と光と、
 そして友情、
 これだけが残っていれば、
 気を落とすことはない。」
※ちなみにここで挙げた4作品はエンターテイメントとして確固たる地位を確立したものばかりです。私が自己満足で挙げたものは一つもありません。したがってこれから読もうと思われている方は安心して読んでいただけるはずです。

posted by つばさ at 22:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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