2012年11月03日

エス(Es)の脅威

 2ちゃんねるをはじめとするネット上の掲示板は、その匿名性を悪用して無責任な、人を傷つける投稿で満ちています。読んでいるだけで多くの人が吐き気を催すことでしょう。個人が楽しむレベルならまだしも、未成年犯罪の加害者の実名を挙げたり、社会的弱者をいじめるなど、その暴挙は冗談の域を遥かに超えており、もはや立派な犯罪行為と言えます。なぜ国家・警察は具体的な対策を取らないのかと、不思議でなりません。これらの暴挙は言論の自由で保護すべきものではなく、言葉の暴力として取り締まるべきものであると思います。
 私は常々これらの掲示板を「悪意の巣窟」と呼んでいます。
 しかし最近私はこの「悪意の巣窟」に考えることがありました。単純に不愉快だとか、けしからんと一蹴することができなくなったのです。

 私が考えたことをお伝えするには、まずフロイトとバタイユの思想を紹介する必要があります。バタイユはフロイトに大きく影響を受けています。
 フロイトは心の構造を超自我―自我―エス(Es、英語のItにあたる)の三つに分類しました。エスは無意識の熱きエネルギーの大海であり、ここには人間の根源的欲求、無意識的欲望が渦巻いています。その本質は非道徳的で汚らしいものです。そして超自我は過剰な道徳性、非現実的な観念(=理想)の化身であって、エスと超自我の間に存在する自我は、エスから非道徳的な衝動に攻め立てられ、超自我からはエスの侵入を許すと厳しい抑圧を受けてしまいます。フロイトはこのように自我を非常に弱い不安定なものとして捉えました。そして彼は医者の立場から危うき西欧人の自我を救うことを目指します。
 その一方でバタイユは、フロイトのこの理論を受けて、逆に超自我に囚われる西欧人を批判し、エスの立場から従来の西欧的価値観を否定します。そしてエスと同様の無秩序な状態にあるこの世界に西欧人も帰属しているという事実、彼らの理性主義的・人間中心主義的な価値観もたかだか一個の戯れにすぎないという事実、絶対的な概念など存在せず、その概念が絶対性を誇れば誇るほど笑いを誘うという事実、これらを西欧人にはっきりと認識させようとしました。
 バタイユの思想は私がこの記事でお伝えしたいこととはずれており、なおかつやや難しいですが、エスという概念を掘り下げて理解するために引用しました。

 フロイトとバタイユの理論に立脚するならば、ネットの掲示板、つまり先程私が述べた「悪意の巣窟」はエスが文字となって溢れ出たものということになります。そして私たちが汚らわしいと思う「悪意の巣窟」は誰の心の中にも存在しうるのです・・・・私の中にも、あなたの中にも。なぜなら「悪意の巣窟」を汚らわしいと思うということは、私たちがそれを理解しているということであり、理解できるということが誰しもの心の中にエスが存在するということを明白に示しているからです。もし理解できないことであれば、それは汚らしいとも素晴しいとも感じない、無意味な文字列になるはずです。

 私は恐ろしく思います。誰しものなかにエスが存在するなら、いつ自我とエスが逆転して私たちが非道徳的な観念に支配されるかわからないのです。実際歴史を紐解けば、そんな例がいくらでも見つかります。
 1929年10月24日に世界大恐慌が起こって、未曾有のインフレが世界中を襲いました。特にドイツでは第一次世界大戦後の天文学的なインフレから復興しかけていたときだけに、国内のダメージは深刻でした。結果疲弊して理性を失ったドイツ国民はアドルフ・ヒトラーという政治家に国の未来を託します。また日本では軍部が暴走をはじめ歯止めをかけられなくなり、1931年満州事変を起こして、中国大陸での泥沼の軍事行動のきっかけを作ってしまいます。
 世界大恐慌によってドイツ・日本国民は衣食住にも困る状態に陥り、その結果理性を失い武力を背景とした狂気の時代へと突入しました。パンがなければ人間は何でもしてしまうのです。今の日本もかつての経済大国の面影を失い、底の見えない不況にあえいでいます。もしこのまま経済力が低下し、パンにも困る時代が来たとき、私たち日本人は理性を失わないでいられるのか、エスの衝動に打ちのめされてまた狂気の時代を繰り返さないか、不安な限りです。私は愛する祖国の同胞がいかなる場合にも理性を失わず、正義に基づいて行動できる優秀な民族であることを切に願うのみです。

posted by つばさ at 21:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 随筆 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/300242086

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。