2013年03月01日

『ネット右翼の矛盾』――憂国が招く「亡国」――(宝島社新書)

「在日は朝鮮半島に帰れ!」「おまえ、在日だろう」
 ネットを使う人は誰でも様々な掲示板でこのような下劣な書き込みに出会った経験があると思います。1回だけならまだしも、あちらこちらでこのような書き込みに遭遇すると、いったい誰がこんな不愉快なことを書いているのかと気になります。私がこのような書き込みをする人が〈ネット右翼〉と呼ばれていると知ったのは、ごく最近でした。彼らの生態については全くわからなかったので、興味本位という後ろめたさを感じながらも、新刊で出ていた本書を買いました。興味本位で買った本ですが、いろいろ考えることが多かったです。あくまで逆説なことですが。

 彼らは〈ネット右翼〉と呼ばれていますが、実態は本物の右翼とは程遠いものです。彼らが攻撃するのは韓国・中国で、しかもその対象のほとんどが韓国・在日コリアンです。右翼のくせに北方領土を占有しているロシアや、日本本土に基地を置き、様々な問題を引き起こしているアメリカについては一切触れません。第1章の冒頭に〈在特会(在日特権を許さない市民の会)〉が、8月6日に広島で核武装を求めるデモを展開するシーンが出てきますが、基本的に直接行動はとりません。ひたすらネットで韓国・在日コリアンを攻撃するだけです。
 彼らは自分たちが不遇だと思い込んでいる境遇、嫌いなことや不満を在日コリアンにかこつけて文句を言っているのです。
 彼らが活動している実数は約10万人ぐらいだそうです。

 彼らは在日コリアンが日本国内で不当な特権を得ており、そのため日本人が大変な不利益を被っていると主張しています。これはネットで流れた完全なデマゴーグなのですが、彼らは無条件にそれを信じ込んでしまいます。自分に都合がいいところだけを真実だと考え、都合の悪い事実はろくに考えることなく無視をします。この点について、第1章の著者の一人である安田浩一氏は次のように述べています。
裏取りをしない。自らの主張に疑いをもたない。思い込みだけで「敵」への憎悪を煽る。身勝手ともいうべきロジックが、この手の運動では幅を利かせる
 例えば生活保護について「日本人が生活保護をもらえず餓死しているのに、在日は優先的にそれを受け取ることができる」と主張しています。そう考える根拠に生活保護世帯率が、在日コリアン世帯の方が日本人世帯よりもはるかに高いことを挙げています。
 これは事実なのですが・・・在日コリアンの受給率が高いのは、それが彼らの経済状況を赤裸々に示しており、彼らは日本人よりはるかに貧しいのです。特に高齢者は国民年金の創設時の国籍条項により、現在年金を受け取ることができず、生活保護制度に頼らざるを得ないという悲惨な状況に置かれています。
 つまり在日の方々は日本においては、全くの社会的弱者なのです。ところがネット右翼たちは、自分たちが被害者面をして弱いものいじめをする。そんな己が恥ずかしいとは思わないのでしょうか?
 第1章に安田氏がインタビューしたある在日コリアンの言葉が記載されていますが、これは私の心をうちました。少々長くなりますが引用します。
僕らは朝鮮人であることを自覚しながら、それでもずっとこの国で生きていきたいんです。それって、あかんことなんでしょうか?
そりゃあね、悪い朝鮮人もいますわ。でもね、朝鮮人の場合は1人が悪いことをすると、周囲の100人が悪者にされますでしょう。日本人の場合なら、そんなことないですよね。・・・今は、在特会の人とかね、会って冷静に話してみたいという気持ちがあります。朝鮮人として何か謝れっていうならば、僕が個人的に頭下げたっていい。在特会に感謝しろっていうのならば、感謝したっていいですよ。別に皮肉でも開き直りでもなく、ほんま、在特会のおかげで、僕らこれからどうやって生きていくべきか、真剣に考えるようになりましたもん。そのうえで、日本って国はワシにとっても、あんたらにとっても、同じ故郷やないか、一緒に仲良くできんのかと、きちんと話し合ってみたいんです
 在日コリアンの方々は朝鮮人といっても、生活基盤は日本にあり、朝鮮半島に帰っても生活できないんだと思います。韓国で生活できるのならとっくに帰っているでしょう。社会的弱者、マイノリティーをただの偏見だけでいじめる。かつて人種差別をしていたアメリカの白人と同じで、人間として最低の行為です。

 第2章では山本一郎氏がネット右翼とはどのような人かを検証しています。ツイッターを分析するサイトを使って、ネット右翼の人間像を描いていますが、分析の方法が横着なような気がします。もっとも私はツイッターのことを何も知りませんし、ネット右翼は雲をつかむような匿名の世界に生息しているので、やむを得ないことなのかもしれませんが。
 山本氏の分析によれば、ネット右翼たちはコミュニケーション能力が欠けていて、友達が少なく、学識・社会的地位が低いため、ネットで集団に属し、特定の集団を攻撃することで憂さ晴らしやガス抜きをしているそうです。そして中には四六時中パソコンにはりつくか、スマートフォンを握り締めて、休みなくネット右翼活動をしている人もいます。
 一見信憑性の薄いネット右翼像ですが、別の視点から考えると、あながちデタラメではないな、ということがわかります。
 すなわち、学識があり、豊かな生活を送っている人がネット右翼活動をして、何かメリットがあるのだろうか、と。
 やはり彼らは、自己のアイデンテイティをネット右翼活動にしか見出せない哀れな人たちなのだろうと推測できます。

 そして一人ひとりは無力でも集団化すると思わぬ力を発揮するのが、人間の不思議なところです。韓国ドラマをたくさん放送するフジテレビと、反日と目された韓国女優をCMに起用した花王が、ネット右翼の集中砲火を浴びて、両社が対応に苦慮した事例が挙げられています。
 ネット右翼とは関係ありませんが、私は常日頃から、日本人のほとんどが韓国に不信感をもっているにもかかわらず、韓流ドラマやアイドルにのめりこむ人も多いというダブルスタンダードを不思議に思っています。私は韓流ドラマにもアイドルにも全く興味がありませんので、相反するものが両立するものなのか、あるいはドラマと竹島問題は別と考えているのか誰かに聞いてみたいと思います。

 この章の最後で山本氏は、
ネットはネットにのめりこむ人間ほど声が大きく、ネットにのめり込める人間はそもそも無能な暇人なのである
と述べています。本文でネットを駆使する自分の姿を記述しながら、こんなことを言うとは自虐趣味でもあるのかな、と思いました。
 ただ、確かにネットの使用は考え物です。調べ物や買い物が便利になった反面、多くの人がくだらない、あるいはガセネタだらけのサイトにのめり込んでいます。ネットのおかげで人間の知的退廃が進んだ、という山本氏の論には私も賛成です。マルクスもあまり多く有用なものが生産され過ぎると、役に立たない人間が多くなり過ぎる結果となる≠ニ言ってるぐらいです。テレビゲーム、ネットなど屋内で、しかも一人で遊ぶツールが普及した結果、子どもが外で遊ばなくなりました。私が子どもの頃は、昼間外に出ると必ず子どもが野球や鬼ごっこをして遊んでいて、その中でコミュニケーション能力を学んでいたものでした。ところが今は、テレビゲーム・パソコンなど便利なものが普及したため、コミュニケーション能力の欠如した子どもが増えてしまっている、という事実は皮肉なものです。

 第3章ではマスコミとネット右翼との関係を述べています(中川浩一郎氏著)。この章はほとんど読む価値がありませんでしたが、安部晋三がネット右翼にすりよっているという記事だけは、笑いながらあきれました。さすがに任期途中で首相職を投げ出すだけのことはあります。安部と麻生はネット右翼から絶対的な支持を得ているそうで、安部は自分に都合の悪いことがテレビに流れると、Facebookを通じてネット右翼に同情を求め、ネット右翼はリクエストに答えて安部を擁護するそうです。岸信介を祖父に、安部晋太郎を父に持つ我が国の国家元首は、やはりボンボンの甘ちゃんでした。

 第4章では前記3人の著者の討論が収録されてしますが、その中では山本氏と中川氏がネット右翼を「バカだ、低能だ」などとこきおろしています。しかしここまで本書を読めば、読者はネット右翼の知的レベルが低いことは充分すぎるほどわかっているはずです。それをまだ「バカだ」と繰り返して、挙句の果てには「税金を払え」と言う。
 普通こういう新書では問題となっている事象について、解決策を提示するものではないでしょうか。ところが著者の2人は小学生レベルの悪口でネット右翼をこきおろすだけ。そんなことを言ったって問題は解決しません。安田氏は別ですが、山本・中川両氏の人間としての品位はネット右翼と同程度のような気がします。この2人がネット右翼を取材したのは単なる興味本位でしょう。ネット右翼を何とかしてやろうという意気込みが全く感じられませんでした。

 最後にこれだけはみなさんにお伝えしたいのですが、ネット右翼たちがネットという架空の世界に現実逃避するのは、我々にも責任があるのです。ネット右翼たちはおそらく若者でしょうから、このような社会にしてしまった我々大人に彼らの退廃の原因があるのです。大人がだらしがないから、子どもが真似をする。もちろん人間は不確定な存在ですから、パーフェクトな社会など存在しませんが、一人ひとりがより良き社会を目指そうという志を持たないと、子どもはますます堕落していきます。逆に私たちが高いモラルを維持できれば、日本人は世界中の人から尊敬されるような民族になることができ、そういう民族を目指すことこそが愛国心の発露だと私は思います。
posted by つばさ at 19:09| Comment(1) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして、小林と申します。
ヤフーニュースのコメントとか見てると、ネトウヨが発言してます。民主党政権のときは、ひどく酷評されていましたね。
僕の周りには、そんな右翼的発言をする人はいません。だからっていうのもなんですが、そういう人は今の若い人の中でも少数だと思います。彼らもやがて、人生経験を踏まえると考え方もかわると思います。だから、一元的に見たくはないです。
ネット右翼だけじゃなくて、人間誰しも矛盾を孕むものだと思います。現に、「ネット右翼」っていう現代語で本を売ろうとする人々の方が、多くの矛盾を孕んでいるのではないでしょうか?
本記事を拝見させていただき、勉強になりました。ありがとうございました。
Posted by 小林 at 2013年03月01日 20:23
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