2013年03月10日

『韓国のホンネ』安田浩一・朴順梨著 竹書房新書

 去年の夏、李明博前大統領が竹島に上陸してから、日韓関係が緊張の度合いを増しています。日本のマスコミ・世論は一斉に韓国を非難しましたが、それは日本側の一方的な言い分であり、どうも私には韓国側の意図がわからない。日韓関係において、私はかねてから韓国側の言い分をじっくり聞いてみたいと思っていたので、新刊で出ていた本書を買ってみました。

 著者の安田氏は前回の記事でご紹介した『ネット右翼の矛盾』の著者の一人でもありますが、興味深いのはもう一人の著者である朴順梨女史です。
 彼女は在日三世として生まれ、日本の一般的な公立学校に通い、日本人と結婚して日本に帰化しました。プロローグの記述によると関東の田舎町で育った私にとって、韓国は関心も興味もない場所だった。なぜなら地元の公立校に通い、日本人の友人しかいない私には、日本が世界のすべてだったからだ≠サうです。帰化したのち、逆に韓国のことが非常に気になりはじめたそうですが、おそらく揺れ動く自己のアイデンティティの中で「一体私は誰なのか?」と心が恐慌をきたしたのではないかと私は思います。したがって日本人というアイデンティティしか持たない私にとって、彼女の話は非常に印象的で勉強になりました。

 本当は韓国人の書いた本を読みたいと思ったのですが、安田・朴両氏が書いた本書もとてもおもしろかったです。

【韓国の政治は日本人のイメージとは違う】
 本書を読むと、私たちが抱く韓国のイメージと実像は、少々へだたりがあるようです。韓国が民主化したのは1987年で、それまでは軍事政権でした。私が学生時代、たぶん1995年だったと思いますが、大学の短期集中講座に韓国の講師が来て、その講義を受けました。そのとき「今韓国に遊びに来ても何もないよ。今まで軍事政権だったからね」と言っていたのをよく覚えています。ずいぶん昔のことなので講義の内容は覚えていませんが、ほとんどの話が雑談だったこと、その雑談が無茶苦茶おもしろかったこと、他の韓国人と同様に濁音の発音がうまくできていなかったこと、などをぼんやりと覚えています(単位は無条件にくれました)。
 あれから18年の歳月が流れ、現在では韓流ドラマやアイドルが日本で大変な人気を博しており、韓国の大衆娯楽文化も日本と同じレベルにきたか、と誰もが感じているはずです。ところが本書によると、李明博政権下で表現の自由が委縮した≠ニあります。李政権は6万人もの通信を傍受し、監視したと言われ、メディア幹部・企業経営者・警察幹部・政治家・労組関係者などに対して反政府的な言動をしていないか、盗聴・尾行・銀行口座の調査などを通じて監視活動を行っていました。
 また朴順梨氏がインタビューした民間人の中に、李明博を侮辱する意味のツイッターのアカウントを使っていたら、政府からアクセスを遮断され、選挙法違反で起訴された人が出てきます。
 さらに李政権は宣伝活動にも力を入れ、世論調査チームは李明博の後継者である朴槿恵の大統領選勝利を必死で支えていました。
 日本で政府関係者が言論封殺をして、他人を盗聴・尾行などしていたら、ただでは済みません。オウム事件において、坂本弁護士が神奈川県警の共産党幹部宅の電話盗聴事件を担当していたため、一家失踪事件の初動捜査が遅れたことで、県警は大変な非難を浴びました。
 私が思うに、韓国の民主化のレベルは日本に比べると、まだまだ遅れています。政権による言論封殺を許してしまうのは、まだ韓国の政治体質の中に軍事政権の影響が色濃く残っているからではないでしょうか。
 したがって政府には、都合のいい政策を実行できる、ある程度の土壌があると考えられます。小学校からわざわざ独島の教育の時間を作る、など私は前からおかしいな国だな、と思ってました。日本人留学生が韓国人からしつこく「独島は韓国のもの」と繰り返されるので、その理由を聞くと韓国人は「学校で習ったから」としか答えることができないそうです。
 本書で安田氏がインタビューした韓国の反戦活動家はこんなことを言っています。
(領土問題は)重要な政治課題を置き去りにしてしまうだけの力をもっていますよね。それを煽ることで、政治的な求心力になる。ぼくはそこに危機感をもっているんです
(若い人の)様々な不安や不満が容易に愛国心と結びついてしまう可能性は否定できません。いや、愛国心と自覚しなくとも、領土問題などは国民統合の材料として簡単に活用できる空気がありますからね
 韓国政府が支持率上昇に領土問題を使い、それにマスコミが便乗して国民の反日感情を煽るという図式がある、と私は推測しています。マスコミは領土問題を扱うことで、視聴率を稼げますから。
 しかしそう考えると、領土問題の悪用は日本側にもある、と私は思います。マスコミがそれに悪乗りをして視聴率を稼いでいる気がします。竹島問題の報道で韓国国民にインタビューをするシーンでは、全員が日本を罵り、挑発します。しかし朴順梨氏がインタビューしたうちの一人はこんなことを言っています。
李明博の竹島訪問を見て「バカなことをして。頼むからじっとしてくれ」って思った韓国人は、実際とても多いんです
 このように思っている韓国人が本当に多いのかどうか、私には定かではありません。しかし先述の韓国の反戦活動家が言うように、政府が支持率アップに、マスコミが視聴率獲得のために、領土問題を利用する可能性は非常に高いのです。悲しいことに、他国との友好的なニュースより、きな臭いニュースの方が、国民の関心を買いますから。

【韓国の市井の人々】
 本書では安田氏・朴順梨氏が幾人かの韓国の一般の人たちにインタビューしています。それを読んで気づくのは、日本人がイメージする韓国人と、その実像とは少々違うということでしょう。
 さきほど述べましたが、テレビに映る韓国人は、みな牙をむいて竹島問題・歴史認識について日本を罵ります。それを見て日本人もまた反発して、韓国人を憎悪する負の連鎖が起こります。しかしインタビューに出てくる韓国人は、日本のアニメやドラマが好きで、日本に親近感をもっている人がほとんどです。中には韓国人と日本人留学生が靖国参拝問題で言い争う場面もありますが。
 韓国にはVANK(Voluntary Agency Network of Korea)という組織があるそうです。韓国版ネット右翼と一部日本の週刊誌が紹介しているようですが、実情は日本のネット右翼とはかけ離れています。まずVANKには事務局があり、代表もいます。海外に向けて韓国のよさを伝えるというのがこの組織の目的で、それが右翼的だと思われることもあるらしいのですが、日本のネット右翼のように目的もないまま、やみくもに在日コリアンを攻撃する悪質なものとは違うようです。さらに海外に韓国のことを伝える必要性から、高度な英語力を要求されるところなど、ただの右翼とは一線を画しています。
 VANKを取材した安田氏が、そのメンバーの女子高生4人と夕食をとりながら、話をするシーンがあります。女の子たちは口々に日本のドラマやアイドルを称賛しながらも、しっかりした意見を安田氏にぶつけます。
日本人の悪口を言う人は少なくありません。でも韓国だけが正しいのかという疑問もあります。ですから日本人と一緒に歴史を勉強する機会があれば、もっと仲良くできるかもしれません
結局、韓国も日本も、互いのことをよく知らないからいがみ合うんじゃないかな
 2番目の言葉はまさに真理です。マスコミの興味本位の情報に踊らされず、両国の人々が直に話しあうことが、日韓関係修復のために必要不可欠なのです。
 また朴順梨氏が韓国人の友人と話をしているシーンで、大統領選のことは熱っぽく語るが、竹島のことを聞かれると「別に日本に言いたいことはない」と興味無さそうに答える場面があります。日本人と同じくみんながみんな領土問題に関心があるわけでもなく、ノンポリも多いということが私には新たな発見でした(ちなみに韓国は中国とも領土問題でもめている)。

【私の所感】
 本書でインタビューされた人たちは比較的若い人ばかりで、終戦後長い年月がたっているので、それほど歴史認識についてとやかくは言っていませんでした。しかし年配の方には、やはり日帝支配時代の嫌な思い出があります。韓国が自分たちの力で独立できなかったこと、親日派が韓国を支配していたこと、その親日派たちを清算しなかったことがトラウマになっています。
 今でも日本寄りの発想をする人を「親日派」と言って侮蔑します。多くの韓国人が親日派というレッテルをはられるのを恐れています。裏切り者・売国奴と思われないために。だからやむを得ず反日を演じている人もいるかもしれません。
 安田氏が知日派の大学教授とこんなやりとりをしています。
先生、領土問題に〈終着点〉はあるんですかねえ
ないですね。ないと思いますよ
 竹島が歴史認識の象徴になっている以上、この教授のいうように問題解決は不可能なのかもしれません。

 私は以前から日韓の歴史認識について、民間レベルでお互いに話し合うのがいいのではないかと考えてきました。政治家が話し合ったって、しょせん建前論だけが堂々巡りになるだけです。むしろ政治家や官僚がお互い話し合って結果を残さないと、両国の国民感情は余計に悪化するような気がします。民間レベルの討論会に政府が出資して、相互の交流を深め、何が問題なのかを何度も徹底的に話し合う場があれば、最低相手の言い分だけは理解できます。現状はお互いが自分たちの主張を一方的に投げつけているだけです。
 本書を読んで、韓国人も日本人と変わらないことがわかりました。同じ人間なのです。互いのナショナリズムを超克し、少しでも相互理解を深めたい。韓国は日本にとって大切な隣人ですから。

posted by つばさ at 01:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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