2013年03月26日

『黒人はなぜ足が速いのか』若原正己著 新潮選書

 北京オリンピックの陸上男子100m決勝に出場したのは、全員黒人。私はロンドン五輪の陸上男子100m決勝は観ていませんが、おそらく同じでしょう。またアメリカではアメフト・野球・バスケ・ボクシングといったメジャー・スポーツは黒人の独壇場です(野球は黒人離れが進んでいるらしい)。昔観た映画のワンシーンで「白人が活躍できるスポーツは、アイスホッケーしかなくなった」とプロホッケー選手役の人が言っていたのが、長らく記憶に残っています。また1998年のワールドカップ・サッカー・フランス大会でフランス代表のほとんどが黒人なのをみて、当時のフランス政府高官が「これはフランス代表ではない」と言って物議をかもしました(ジダンもアルジェリア移民)。確かに私が86年のメキシコ大会を観たときは、フランス代表の黒人選手はティガナという選手一人でした。余談ですが、ティガナは非常にいい選手で、当時プラティニと黄金の中盤を形成していました。
 このように、現代のスポーツ界の黒人の活躍は圧倒的です(水泳は例外)。これだけ黒人がスポーツで活躍すると、スポーツでは白人やアジア人は黒人には勝てないんじゃないか、何か黒人には運動能力について特別な才能が備わっているのではないか、と思わざるを得ません。この黒人の圧倒的な強さ、スポーツにおける黒人の優越を、遺伝子レベルで考察しようというのが本書の狙いです。

【西アフリカと東アフリカ】
 一口に黒人と言っても、西アフリカ人と東アフリカ人では体質が違うそうです。西アフリカの人々は身体が大きく、短距離走など瞬発力を必要とする競技が強い。一方で東アフリカの人々は持久力があり、長距離種目に抜群の強さを発揮します。アメリカ大陸に奴隷として送られたのが西アフリカの人々だったので、「強くて、速い」黒人たちがトップ・アスリートとして、現在先述のスポーツで活躍しています。
 筆者は短距離・瞬発力系の遺伝子を三種類、長距離・持久力型の遺伝子を五つ挙げて、東西アフリカのアスリートがこれらの遺伝子において優れたDNAを持っていると述べています。ただし、男が正常に発育して、毎日膨大な精子を作り、性的行動を起こし、射精をして次世代をつくるというごく普通のことを成し遂げるのに3000個もの遺伝子が必要なのだ≠ニして、3個や5個の遺伝子からその個体の運動能力がわかるわけがない、と最後に結論付けています・・・。
「結局わからないんじゃないか。だったらこんな大仰なタイトルをつけるなよ」とガッカリさせられました。

【人種差別につながる「黒人の優越」】
 ただ、筆者が玉虫色の結論を出してしまうのにもわけがあります。いくつかの遺伝子で黒人が優れているから、黒人の運動能力が優れていると認めてしまうと、それがそのまま人種間に特別な〈差異〉が存在することを認めるのと同じことになります。
 日本人からは「人種差別はなくなった」ようにみえますが、まだまだ根の深いところで人種差別の火種はくすぶっています。
 そして一番恐ろしいのは、「インテリジェンス(知性)において人種間に優劣がある」ことが科学的に立証される可能性があることです。もしインテリジェンスの優劣に科学的根拠が確立されれば、優性人種による劣勢人種への偏見・差別は避けられないでしょう。もっともこんなことは、相当科学技術が進歩しないとわからないことですが、あまり人種間の差異を興味本位で調べるのはやめたほうがいいと思います。

 ただし、人種間の差異は私たちが考えているようなものではないようです。念のため本書で使われている「民族・人種の遺伝的距離」という図を添付します。この図によれば、アジア東北部の集団(日本人を含む)とオーストラリア先住民の距離よりも、東アフリカ人と西アフリカ人の距離の方が離れていることがわかります。つまり十把一からげに「黒人」というのは正確ではないのです。アフリカ人の中でも、白人と黄色人種以上に相違がある集団が存在するそうです。
素人的に考えれば集団間の差、たとえば白人と黒人の差、日本人と白人の差が大きいと思いがちだ。ところが科学的に分析してみると、集団内の差の方が圧倒的に大きい。つまり、世界中にすむ人々の遺伝的相違は、ほとんどは個々人の相違であり、集団間の相違はごく少ない≠ニ筆者は述べています。

黒人ブログ.jpg

【酒に強い人種と弱い人種】
 スポーツとは全く関係ありませんが、筆者が遺伝子生物学を専攻しているので、このような標題について記述がありました。
 アルコールが体内に入ると、大部分が肝臓で分解されます。そのとき身体にとって有害なアセトアルデヒドが発生しますが、アセトアルデヒドを分解するアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)が欠損した遺伝子型を持つ人がいます。このような遺伝子型をもつのはモンゴロイド(アジア人種)だけです。そして日本の中でもALDHが働く、つまり酒の強い人は東北と南九州に多く、中部・近畿・中国地方ではALDHが働かない、つまり酒の弱い人が多いそうです。
 私は全くの下戸なので、中国地方出身だからかな?と思ったりします。
 下戸なので、学生時代・サラリーマン時代苦労しました。「おれの酒が飲めないっていうのか?」とからまれては、「飲めるわけないだろう」と思いつつ、無理矢理喉に流し込み、トイレとの往復でした。日本の飲み会では飲めない人間に無理矢理酒を飲まそうとしますが、これは下戸がいるから成立する文化なのかな、と思いました。

【ジャッキー・ロビンソンの逸話】
 本書を読む前、ロンドン・オリンピックの前に『人種とスポーツ』(川嶋浩平著、中公新書)も読んでいました。内容はよく覚えていませんが、次のエピソードには非常に心を打たれたので、ご紹介いたします。
※ジャッキー・ロビンソンは黒人初のメジャーリーガーです。
1945年8月、ブルックリン・ドジャースのGMブランチ・リッキーとジャッキー・ロビンソンは契約を前に3時間におよぶ面談を行った。リッキーは、ロビンソンが球場でいかなる人種的な罵詈雑言を浴びせられても、冷静さを保ち、仕返しをしないことを約束できるかを尋ねた。ロビンソンは、「あなたはそんな目に遭っても反抗できない弱虫ニグロがほしいのか」と切り返した。リッキーは間髪を入れずこう応じた。「私は、それでも反抗しないだけのガッツがあるやつがほしいのだ」と
 これでロビンソンは納得し、球団に入団しました。勇気やガッツの意味を勘違いしていた私は、これを読んでガツンと言わされました。



posted by つばさ at 18:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 随筆 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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