2013年04月23日

ピーク・オイル――石油が枯渇するとき――

 執筆活動において、石油の知識が必要になったので、『地球最後のオイルショック』(ディヴィッド・ストローン著、新潮選書)を読みました。石油になんか全く興味がなかったのですが、この本はかなりおもしろかったです。筆者は18ヶ月にわたって調査を行い、170人を超える人たちにインタビューをしており、彼のピーク・オイルに関する著述には、相当なリアリティと迫力がありました。少しボリュームがあり、読むのに歯ごたえがありますが、私のお勧めの一冊です。


 ピーク・オイルとは石油がなくなることではなく、生産のピークを過ぎることです。「なんだ、なくなるんじゃないのか」と思われる方がいらっしゃると思いますが、オイル・ピークを迎えることが、経済にどれだけの影響を与えるかを考えると身の毛がよだちます。
 まず石油生産のピークを迎えるということは、これ以上石油が増産できないということであり、原油価格が急上昇するでしょう。ただでさえ高値をつけている原油価格がこれ以上上昇すれば、世界経済は大打撃を受けます。車は動かなくなり、飛行機は飛ばなくなり、工業だけなく、農業にも悪影響を与えます。残った石油の取り合いで戦争が起こるかもしれません。オイル・ピークを迎えるということは、そのまま食料危機・文明崩壊を招いてしまうのです。
 ・・・もっとも、皮肉なことにオイル・ピークによって打撃を受けるのは、石油に依存した生活を送っている我々先進国だけです。元々石油とは縁のない貧しい生活をしている途上国の人たちにはさほど影響が出ないでしょう。先進国の人間が快適な生活を手放さなければならないだけの話なのです。

 最初にピーク・オイルという説を唱えたのは、マリオン・キング・ハバートというテキサスの石油地質学者でした。彼はシェルに勤めていた1950年代半ばに様々な科学的データからアメリカの石油生産は1970年に減産に入ると予測します。彼の学説は発表当初は無視をされていましたが、1970年ピッタリにアメリカの石油生産が減産に入ったことを受けて、急激に脚光を浴びました。それまで石油はまだまだなくならないと考えていた人々は驚愕し、その後の73年、79年の2度の石油ショックが追い打ちをかけます。

 今現在、非OPEC諸国のほとんどがピーク・アウトしていると言われ、多くの学者・専門家がオイル・ピークを2020年前後と予測しています。
 ただ問題なのが、OPECです。OPEC諸国は世界の石油生産量の40%を占めており、世界の残存埋蔵量の4分の3を握っていると言われています。しかしOPECについては謎のベールに包まれた部分が多く、専門家たちを悩ませています。OPECは石油の生産枠を設けており、生産枠は埋蔵量の比率ごとに各国に割り当てられます。したがってOPEC諸国は少しでも生産枠を多く得て石油を売るために、嘘の埋蔵量を公表するそうです。OPECは石油産業を国営化しているため、BPやシェルといった欧米の石油メジャーが現地に入って埋蔵量の調査をするわけにもいかず、世界の石油の残存埋蔵量の計算においては、専門家はOPECの公表数値を大幅に値引いて行っています。
 また石油はまだあると世界に思わせておいた方がOPECには都合がいいという事情もあります。そうすれば石油代替エネルギーの開発を遅らせることができるからです。
 ただ著者が湾岸地域に入ってインタヴューや現地視察をした結果、OPECも生産をフル稼働で行っており、もう埋蔵量に余力がないという見方をしています。

【石油に関する私たちの誤解】
〈まだ未発見の油田がたくさんあるのではないか?〉
 こう考えている方が多いと思われますし、私もそう思っていました。しかし石油探査とは視覚的なものと同様で、大きいものから発見されるそうです。しかも石油は大金になるので、石油会社がほぼ世界中を探査しつくしたと考えられており、今後ガワール油田のような巨大油田が発見される可能性はまずないそうです(深海油田を除く)。せいぜい採算の合わない小規模油田が発見されるだけでしょう。
※尖閣諸島の石油埋蔵量は32.6億バレルと言われています(1000億バレルというイラクやクウェートなみの埋蔵量があるという推計もありますが、現実的ではありません)。日本の年間石油消費量は16.1億バレルなので、日本一国だけで使用しても、ほぼ2年で消費し尽くしてしまいます。ちなみに日本の石油備蓄量は5.5億バレル(177日分)です。

〈油田の石油は全部回収するのではないのか?〉
 油層にある原油の回収率は35〜40%です。
 原油は地層の中の頑強な岩盤の中に存在します。岩盤の中の連結した穴の中に原油は閉じ込められています。一般的な地下1万フィート(約3km)の油層には、1平方インチあたりおよそ4500ポンド(約2041kg)の高圧がかかっています。したがって井戸を掘り、必要な管を設置すれば、地表の圧力との差で原油が自然に噴出します。
 しかし原油が地表に噴出すれば、当然油層の圧力が減少するわけで、1平方インチあたりの圧力が2500ポンド(約1134kg)になったとき、原油の噴出は止まります。
 この時点で採算が取れれば、原油のかわりに水を入れて圧力を保つか、電気ポンプを油井の底まで下げて、原油を押し上げることもできますが、こうした「人工的な押し上げ」の効果は限られています。
 結果として埋蔵量の3分の2近くが残されたまま、採掘を終えるということになります。
 こんなもったいないことをしているとは思いませんでした。

【輸送用燃料の枯渇】
 オイル・ピークに直面して多くの方が「電力は大丈夫だろうか?」と不安に思われるでしょう。実は電力についてはまだ余裕があります。
 日本の電力の内訳を見てみましょう。
★火力発電(石炭40%、天然ガス40%、石油15%、その他5%)
★発電全体の割合(水力4.5%、火力90.2%、原子力5.3%)
(注)原子力が発電全体の割合に入っていますが、引用したデータは2011年3月11日以前のものです。

 問題になるのは火力発電ですが、石油は全体の15%しか占めていません。80%を石炭と天然ガスで占めていますが、どちらも石油に比べれば残存量は多いようです(ただし石油よりも温室効果ガスを多く排出する)。

 したがって問題は発電よりも、輸送用燃料なのです。輸送用燃料の95%は石油(ガソリン、軽油、重油など)で占められています。自動車・船舶・航空機に依存した生活を送っている我々先進国の人間にとって、これらの輸送手段が使えなくなる、というのは決定的な打撃です。
 筆者は地球温暖化と話をからめて、環境に優しい輸送用エネルギーに代替案を3つを検討していますので、引用してみます。

@ 水素の燃料電池
 水素を触媒を使って水素イオンと電子に分け、電子が回路を流れることによって生じる電流を動力源とする。
――問題点――
 2004年の英国の全乗用車の年間走行距離は約4000億マイル(6400億km)。燃料電池車が水素1kgあたり55マイル(88km)走るとすると、必要な水素の量は73億kg。水素1kgの生成に必要な電力は65kWhであり、全体で4730億kWhである。これを年間の時間数(8760時間)で割れば、54GW(ギガワット)の発電施設の追加が必要になる。英国の自動車燃料の残り3分の1はトラックが占める。トラックは水素で走り、乗用車と同じ消費燃料比率とするが、積載量が多いので単位当たりの燃料消費は大きい。乗用車とトラックをあわせると81GWの電力が必要な計算となり、英国全土の発電能力を上回る。これはサイズウェルB原発だと67基分の発電量にあたり、風力・太陽光などのクリーン・エネルギーでこの電力をまかなうのは不可能。

A バイオエタノール
 トウモロコシやサトウキビなどの糖分を発酵させてつくる。バイオエタノールのエネルギー量はガソリンの3分の2。サトウキビを使ったブラジルのバイオエタノールがもっとも有力。
――問題点――
 土地の不足。ブラジルの農業大臣は、国内にサトウキビ生産に転用できる土地が9000万ヘクタールあると公言おり、仮にこの土地をすべてサトウキビの栽培に転用すれば、2003年の世界のガソリンの全消費量の29%を充足できる。しかし9000万ヘクタールには貴重な野生サバンナが多く含まれており、生態系への影響が懸念される。さらにサトウキビの栽培にこの広大な土地を使用するには、膨大なインフラ整備が必要となる。また2003年の世界の石油消費量を全量、バイオエタノールに代替する場合、必要な作付面積は3億2000万ヘクタール(インドの面積と同じ)であり、2030年には石油需要が30%増大すると予想されているため、さらに1億ヘクタール必要になる。そしてピークアウト後、年3%ずつ減っていく石油を穴埋めするには、栽培面積を毎年900万ヘクタールずつ増やす必要があるが、これはスリランカと赤道ギニアを合わせた広さになる。
※エタノールはガソリンのかわりになるが、世界の輸送燃料の半分以上はディーゼル燃料であることも問題。

B バイオディーゼル
 ヤトロファ(ナンヨウアブラギリ)の実から作られる。熱帯・亜熱帯の荒れ地で栽培可能なため、食料との競合はなく、農家の副業にもなる。
――問題点――
 世界のディーゼル燃料を代替するには、3億7000万ヘクタールの土地が必要になる。栽培に必要な土地はサトウキビよりはるかに大きい。ピークアウトした後、年3%ずつ減っていく石油を穴埋めするには、栽培面積を毎年1000万ヘクタールずつ増やす必要があるが、これはキューバの面積に匹敵する。

 この3つの石油代替エネルギーに関する考察を読んで、私はおかしいなと思いました。水素の燃料電池だけで英国の輸送用エネルギーすべてをまかなう必要があるのでしょうか?またバイオエタノール・バイオディーゼルだけで世界中の輸送用エネルギーをまかなう必要があるのでしょうか?
 筆者の推定は極端すぎるのです。これら3つを上手に融合させれば、ある程度石油のかわりの役目を果たすことが可能なはずです。ただしこれらを融合した輸送システムを作るには、膨大なインフラが必要でしょう。はたして政治家が未来のために動くか、それが問題です。

 民主主義において現在政権の座にいる者は、今有権者が喜ぶ政策はやりますが、未来のための政策はほったらかしです。なぜなら未来の政策に対しては有権者が関心を示さないため、票につながらないからです。それどころか多額の国家財政が必要だとなってくると、増税が必要で、有権者の反発すら招きかねません。民主主義の落とし穴ですね。政治家・有権者の両方がもっと賢くならないと、私たちの子ども・孫の世代に悪政のつけをまわしてしまうことになります。

 それから原子力発電についてですが、オイル・ピークが目前に迫ってきて、原発回帰の動きが活発化しているようです(この本は2008年発行で当然福島の事故のことは知らない)。ちなみにフランスは電力の80%を原発でまかなっています。
 福島での事故を受けて、反原発派が勢いを増していますが、彼らは石油がピーク・アウトしたあと、エネルギー需要をどうするのか展望をもっているのでしょうか?私も原発は危ないと思うし、もちろんないに越したことはありません。しかし明確なエネルギー代替策もないのに、むやみに反対することはできません。
 例えば大津波が福島を襲う1年前に、実際襲ってきたレベルの津波に対処するため、原発を安全強化したい、と東電の担当社員が言ったら上司は許可したでしょうか?「そんなでかい津波が来るわけないだろう。そんな金はない」と一蹴したはずです。今反原発と騒いでいる人たちが東電の責任者であっても同じことを言ったと思います。「金がない」と。
 結局人間は泥縄式の結果論でしかものを言えないのです。予知能力はありませんから。しかし結果論をあたかも生涯の自論のように振り回す人間がいるのは問題です。
 原発の良し悪しはエネルギー政策全般を見つめなおした上で、考えるべきではないでしょうか。誰も原始時代の生活に戻りたくないはずですから。
posted by つばさ at 15:38| Comment(2) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!
Posted by 投資 at 2013年05月18日 22:34
「投資」様、ありがとうございます。私も貴殿のブログに遊びにいきたいと思います。
Posted by つばさ at 2013年05月19日 18:21
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