薬物問題をテーマに現在物書きをしているのですが、ヘロインについて、日本語の文献、日本語のサイトに詳しい情報がなかったので、英語サイトを翻訳しました。薬物問題をテーマに小説を書こうとしている方がいれば、参考にしていただければと思います。
『ヘロインの密造』(原文はこちら)
私はこの記事を数ヶ月前に書いたが、これをネットに掲示するまで時間がなくてなかなか手が回らなかった。化学反応における情報のほとんどは、DEA(米麻薬取締局)の出版物である「Opium and Heroin Cultivation in Southeast Asia(東南アジアにおけるアヘンとヘロインの栽培)」に依拠している。最近誰かがhttp://www.omnilex.com/public/ps.htmlというウェッブサイトにDEAのこの記事を載せた(訳注:HTML’edという単語の意味が不明)。そのあと彼ら(訳注:DEA)はそれを削除し(コンテンツのリストはまだそこにあるが)、今もそのままである。誰かがそれがアップロードされている間に文書を掲示したが、それはDejaNews(訳注:Google Groupというディスカッション・サイトの前身)上で見ることができる。しかし私はこの記事をただ単に、私が暇な時間をたくさん持っていることを示すために掲示した・・・。
私よりも(すなわち誰でもいい)化学についてより多くの知識をもっている人からの修正・校正は歓迎します。
T.ケシ
ケシ(訳注:Papaver somniferumはケシの学名)の違法栽培は、伝統的にアジアのビジネスである。近年、ケシの栽培は西半球の主にメキシコやコロンビアといった熱帯の高地に広がっている。全世界の違法なアヘンの生産高は4,157トンと見積もられ、2,561トンとその中でもっとも大きな割合を占めているのは東南アジア(主要なのはミャンマーで、ラオス、タイ、中国、ヴェトナム、カンボジアでも多くの生産高がある)である。東南アジアに続くのは、西南アジアで、主要なのはアフガニスタン(パキスタン、トルコ、イラン、インド、レバノン、キルギスタンで少量の生産がある)である。違法ヘロインを精製するためにつくられるアヘンの大部分をこれら2つの地域が占めている。コロンビアでは1996年に65.5トンのアヘンが作られたと推定されたが、一方でメキシコでは1995年に53トンのアヘンが作られたと推測された。これら西半球産のアヘンに由来するヘロインはほとんど独占的に米国に向かうが、その一方で東南アジア原産のヘロインは全世界の流通網を流れていく。西南アジア原産のものは大部分がヨーロッパへ輸出されるか、あるいは地元で消費される。
ケシは1年生の花が咲く植物で、元々北東地中海沿岸の原産であり、数千年にわたる交配と栽培を通して、進化してきたものと考えられている。ケシはたいてい海抜800メートル(2500フィート)以上の乾燥した温和な気候でもっともよく育つ。生育に最適な季節はその地域の気候によるが、9月から7月まである。東南アジアでは、栽培は10月後半までには終了するが、それは南半球の冬の長い日々を利用するためである。栽培地は最適な水はけを得るため、20度から40度の傾斜を持つ斜面で最大の日光の照射を得るよう選ばれる(水分が多すぎると、植物がダメになる)。約1ポンドの種が1エーカーの土地に種まきするのに必要とされる。11月までに、つまり苗がキャベツあるいはレタス状の段階に入り、1フィートの高さに到達したとき、いくつかの苗は他の苗が育つ空間を残すために除去される(その空間は苗と苗の間隔が1フィートか2フィートになるぐらい)。典型的なケシ畑では1ヘクタールあたり6万から12万本の草本がある(1ヘクタールは2.46エーカー)。成熟したケシは高さが2フィートから5フィートに達し、それから約90日後に花が咲きはじめ、その花はケシ1本あたり3個から8個である。花は数週間咲き続け、早春に満開を迎える(地域によってはもっと遅い。より西の地域ほど遅咲きが顕著である)。満開になったあと、花びらが落ち、小さく丸い灰緑色の実があらわれ、鶏の卵ぐらいの大きさの扁円の細長い、あるいは球形の凵iさや、球根、あるいはケシの刮ハとも呼ばれる)になるまで成長を続ける。さやの皮は子房を囲い込み、さや中にはりめぐらされた導管と管状器官のネットワークに蓄えられた合成乳液(アヘン)をその壁は分泌する。
花びらが落ちて約2週間後、前述した凾フ形で示したようにさやは完全に熟し、色は灰緑色から濃緑色に変わる(訳注:この時点のさやを日本ではケシ坊主とも呼ぶ)。さやの頂点は直立するか、上に向かってカーブを描く。この時点で、さやは刻み目をつけられる(あるいは刻みをつけて樹液を取られる、切り込まれる、切開される)準備が整う。収穫者は3つか4つの刃のついた器具(木の柄に固く結ばれた鉄かガラスの刃)で切り込みを入れる。その器具はおよそ1ミリの深さに切り込みを入れるよう設計されている(あまりに切り込みが深いとさやの中央か地面のどちらかに乳液がこぼれすぎてしまう。浅すぎると乳液が望むようににじみでない)。さやはその表面に白い乳液がにじみ出るようにするために、午後におのおの2回か3回切り込みを入れられる。一晩でアヘンは酸化し、黒っぽく濁り、朝には平らな鉄の刃でさやの表面からこすり落とされる。この手順は各々のさやがアヘンを枯渇させるまで数日間繰り返される。各々のさやは10ミリグラムから100ミリグラムのアヘンを産み出し、平均80ミリグラムである。アヘンは日光で乾かすために容器に入れて貯えておかれる(最もアヘンの産出量が多かったさやは印をつけられ、草本から切り取られ、切り開かれて日光で乾かされ、次期の栽培のために種が貯えられる)。乾かされた天然のアヘンは茶色から黒色であり、質の高いものほど茶色でねばねばしている。典型的な農園では1エーカーにつき3キロから9キロのアヘンがつくり出される。
U.アヘン:いくつかの重要な統計
アヘンには40種類以上のアルカロイドが存在するものと確認されており、そのほとんどがメコン酸塩である。これらのアルカロイドのうちでもっとも重要なのはもちろんモルヒネである。トルコ種のアヘン(薬屋のアヘン)が含有するモルヒネは21パーセントにのぼるが、ケシからとれるアヘンの平均的なモルヒネの含有量は質量で9パーセントから14パーセントである。その次に重要なアルカロイドはコデイン(3-methoxymorphine)で、乾燥した乳液の0.5パーセントから2.5パーセントを構成している。ノスカピンはアヘンに4パーセントから8パーセント含まれ、処方箋なしで売ることができる向精神性はない咳止めとして使われている。パパベリンは0.5パーセントから2.5パーセント含まれ、消化を助ける抗けいれん薬として売られている。テバインは0.5パーセントから2パーセント含まれ、高い服用量でけいれん誘引剤となる。そしてまた化学構造がモルヒネに似ており、ヒドロコドンやオキシコドンのような半合成の鎮静剤の合法的な製造に使われる(ハカマオニゲシとして知られる別の種のケシは、より高い濃度のテバインを含んでおり、このアルカロイドを抽出するために栽培されている)。他に含んでいるアルカロイドとしては、ナルセイン、プロトピン、ラウダニン、コダミン、クリプトピン、ランソピン、その他である。
理想的には、上記のアルカロイドはヘロインへの転換のためのアヘンの精製において除去されるべきである。しかし密造の応用化学では理想的であることはほとんどなく、これらのアルカロイドのいくらかは原料の不純物として残ったままである。原料のもっとも有名な不純物はコデインの除去の失敗から生じる。ヘロインの精製は、以下で詳細に述べるが、3,6-ジアセチルモルヒネを合成するためのモルヒネのアセチル化を含む。アセチル化したコデイン(アセチル-コデイン)はしばしば路上で売られるヘロインの麻薬成分の10パーセントを構成し、時にはその量が45パーセントにのぼることもある。アセチルコデインはヘロインの符号解析の使われるキーマーカーである。なぜなら没収された一群のヘロインとアセチルモルヒネの割合は、製造した国によってまちまちであることが知られているからである(訳注:つまりアセチルコデインを調べれば、そのストリート・ヘロインの生産国がわかる)。またアセチルコデインはマウスでの実験で、ジアセチルモルヒネ(ヘロイン)の2倍有毒であることもわかっている。したがって路上で売られるヘロインの有毒性の一因となっている。未反応のモルヒネやコデインは精製が貧弱なヘロインにも存在しており、とりわけ薬物が静脈に注射されたとき、使用者に有害な反応を引き起こす。フェナントレインではないアルカロイド(すなわちモルヒネ、コデイン、テバインを除くすべてのアルカロイド)が見つかるのはもっとまれなことで、おそらくアセチル化の過程で分解されているのだろう。ノスカピン、パパベリン、ラウダニン、そして、あるいは、クリプトピンは存在はするがとても少量なので、服用量が多いときに毒性を示すけれども、路上で売られているヘロインの薬理的な効果の一因になっているとは考えられていない。テバインはアセチル化によって分解され、分解されたアセチルテバオルという物質が時々存在するが、まったく有害な効果はないと考えられている。
V.ヘロインの精製
天然のアヘンを純粋なヘロイン塩酸塩(ジアセチルモルヒネ HCI)に完璧に転換する方法は、次のように要約される。
1. 天然のアヘンの精製 →
2. アヘンからモルヒネの抽出、精製 →
3. モルヒネのヘロイン塩基への転換 →
4. ヘロイン塩基の精製と(ヘロイン)塩酸塩への転換
2. アヘンからモルヒネの抽出、精製 →
3. モルヒネのヘロイン塩基への転換 →
4. ヘロイン塩基の精製と(ヘロイン)塩酸塩への転換
ステップ4のあと、希釈剤や混ぜ物が製造者と流通網のはるか遠くにいる一団によって加えられる。そしてまたショートカットがステップ2、3、4で取られ、ステップ2とステップ4は一緒に削除されるかもしれない。このセクションで記述される手順は、純粋なジアセチルモルヒネHCIに近いものを作るよう企図された東南アジアで見られるものである。前述したショートカットが他の地域に由来するヘロインの特性とどのように関係するのか、ということと差し押さえられたサンプルに共通に見られる希釈剤と混ぜ物についてのコメントが以下に続く。
1.)アヘンの精製
上述したようにケシから集められた天然のアヘンは、ふたのない料理用の深なべの熱湯の中に入れられる。この過程でアヘンの中のすべてのアルカロイドは溶解し、その一方で土や枝といった固形の残留物は溶けないままで、溶液の表面に浮かぶ。固形の不純物はすくいとられ、あるいは綿布かあるいは黄麻布を使って混合物をこすことによってろ過される。その液体は弱火でまた熱せられ、水を蒸発させると、どろどろの暗いペーストが残り、そしてそのペーストは日光で乾燥される。残ったアヘンはパテのような粘度を持ち、天然のアヘンよりも20パーセント軽い(20パーセント純度が高い)。この時点で産物は喫煙用あるいは食用として輸出されるか、地方で消費される。この工程は消費、あるいはより先の工程を行うため、船積みされる前に農民によって行われ、あるいは天然のアヘンは精製が大きなスケールで行われているヘロイン密造地へ移送される。
2.)モルヒネの抽出
加工されたアヘンは完全に溶けるまで、熱湯の入った大きなドラム缶の中でかき回される。アヘンの約5分の1の消石灰(水酸化カリウム)のかたまり(あるいは石灰がたくさん入った肥料)が溶液に加えられる。この工程には冷水には溶けないモルヒネを水溶性の塩であるカルシウム・モルフィネートに転換する効果がある。ほとんどの段階で他のアルカロイドは反応せず、混合物が冷やされると、モルフィネートが溶液に残り、その一方で他の化学物質は容器の底に茶色い沈殿物を形成して沈下する(コデインはいくぶんか水に溶け、ある程度は溶液の中に残りがちである)。カルシウム・モルフィネート溶液はドラム缶からすくい取られるか、あるいは注ぎ出され、黄麻布の米袋かあるいは他の当座しのぎのろ過器具を使ってろ過され、しぼられる。ろ過された溶液は料理なべの中で再度加熱されるが、沸騰はさせず、そのなべの中には加工されたアヘンの塊の約4分の1の大きさの塩化アンモニウムが加えられる。溶液のpHが8か9になったら、冷却される。数時間内にモルヒネ塩基と残っているすべてのコデインが溶液の中に沈殿し、なべの底で安定する。溶液はそれから布のフィルターを通して注ぎ出され、布にはモルヒネ塩基のかたまりが残る。そしてしぼって乾かされ、さらに太陽で乾かすために取り置かれる。乾燥させた未加工のモルヒネ塩基はコーヒー色の粉末である(より実直な化学者は塩基の混合物からすべての残ったコデインを溶かすため、ろ過にエーテルを使うだろう。しかし密造の記事の中ではこの手順は報告されていない)。
この手順から、ある密造業者たちはステップ3へ直接進んでいるようである。しかし理想的には、未加工のモルヒネ塩基は希釈した塩酸(あるいは硫酸)の中に溶解することによって精製され、モルヒネ塩酸塩(あるいはモルヒネ硫酸塩)の溶液を形成する。活性炭が加えられ、そして溶液は熱せられ、目の細かい布を通してろ過される。ろ過は数回繰り返され、炭とそれに付着した色のついた不純物が取り除かれる。ろ過水は日光で乾かされ、モルヒネ塩酸塩が残る。それはもし(モルヒネの)精製が完璧なら目の細かい白い粉末で、1kgのレンガにまで圧縮され、次の加工手順にまわすため、遠い土地へ移送される。かわりに水酸化アンモニウムが塩酸モルヒネ溶液に加えられ(あるいは塩酸モルヒネにもう一度溶解させられ)、モルヒネ塩基を沈殿させ、粒状の固体を形成するため、ろ過し、乾燥させられる。
3.)モルヒネからヘロイン塩基の単離
ヘロインの形成のためのモルヒネのアセチル化に使われる鍵になる化学物質は無水酢酸である。無水酢酸は無色でピクルスのような強い臭いを持つ可燃性の高い液体である。国際的にはヘロインの前駆体として規制されているが、アスピリンや皮をなめす化学物質を合成したり、写真撮影にも使われる。モルヒネ塩酸塩あるいはモルヒネ塩基はステンレスの容器かエナメル・ポットの中で、モルヒネの約3倍の無水酢酸と混ぜ合わされる。ポットのふたはガスケット(当座しのぎの還流装置)のために湿ったタオルで結ばれ、あるいは固定される。そしてその混合物は沸騰を防ぐため、摂氏85度(華氏185度)で熱せられる。加熱はすべてのモルヒネが溶解するまで5時間ほど続く。ポットが開かれ、混合物――いまや水溶液と酢酸とジアセチルモルヒネ(ヘロイン)である――は冷やすに任される。無水酢酸の3倍の量の水が混合物に加えられ、混合物はかきまぜられる(ときおり少量のクロロフォルムが加えられる。混合物は20分間そのままの状態で放置される。クロロフォルムは色のついた不純物に溶解し、赤く脂っぽい液体としてポットの底に定着し、水の層は注意深く外に注ぎ出される)。活性炭が固体の不純物を吸収するために混合物に加えられ、不純物は溶液が透明になるまで繰り返しろ過される。モルヒネ1kgあたりおよそ2.2kgの炭酸ナトリウム(炭酸ソーダ)がお湯の中に溶かされ、沸騰が止まるまで、つまり固体のヘロイン塩基が沈殿するまで、混合物にゆっくりと加えられる。ヘロイン塩基は目の細かい布でろ過され、取りのけておかれ、乾くまで加熱される。ヘロイン塩基はこの時点では粒状の白い粉末である。もしまだ色が残っているのなら(ベージュあるいは軽い茶色)、ヘロイン塩基は希塩酸あるいは希クエン酸に再度溶解させ、再び炭で処理され、再沈殿させ、乾燥させる。かわりにとある密造地帯では精製の不完全な塩基が梱包され、密売のため移送される(このような悪習は西南アジアに典型的である)。およそ700gのヘロインがモルヒネ1kgからつくりだされる。
余談ではあるが、熟練したヘロインの化学者はヘロインをその2倍の量の沸騰したエチルアルコールの中に入れて溶解させ、加熱した漏斗を通して加熱したフラスコの中に溶液をろ過することで、さらなる精製を行う。この作業でヘロイン塩基に残っている少量の炭酸ナトリウムが除去される。フラスコは氷水の入った容器に沈められ、フラスコの内容物はどろどろとした白いクリームに変形する。その中身はアルコールをゆっくりと蒸発させるために皿に向かって風を送るよう設置された送風機と一緒に、冷蔵庫の中の皿の中に置かれる。ペーストは数時間後には結晶化され、それから真空ろ過される。アルコール・モルヒネ塩基と言われるその生成物はヘロイン塩基に再結晶される。
4.)ヘロイン塩基のヘロイン塩酸塩への転換
各々1kgのヘロイン塩基(あるいは再結晶されたヘロイン塩基)に対して、6.6リットルのエチルアルコール、6.6リットルのエーテル、225ミリリットルの濃縮塩酸溶液が測定された後、用意される。塩基は3分の1のアルコールと2分の1の酸とともに熱せられることで溶解する。前述のものとは別の3分の1の酸が中に入れられ、かきまぜられる。次に生成物が完全に塩酸塩に転換されるまで、残りの酸がゆっくりとピペットで液滴される。一滴の溶液をたらして濁った残留物のないガラス板の上で蒸発するのを観察することか、試験紙にたらした一滴の溶液が青色に変わることを観察することのどちらかを行うことによって、この結果は確認される。いったん転換が完了すれば、残ったアルコールがかきまぜながら入れられる。それから半分のエーテルを加え、15分間混合物を放置する。溶液の中で結晶が形成されはじめたら、すぐに残りのエーテルを加え、容器に覆いをかける。混合物は1時間後にはほぼ固体化する。それからろ過され、固体はきれいなろ過紙で集められる。固体は紙にくるまれ、木製のトレイの上で、通常は石灰石の上で乾かされ、そして日光にさらして乾かされる。充分に乾燥された生成物がヘロイン塩酸塩で、目の細かい白い粉末であり、いまや梱包され、移送される準備が整ったことになる。